機能的価値と情緒的価値〜今さら聞けないブランディングの基本

ブランディングの勉強をしていると「機能的価値」と「情緒的価値」という言葉を必ず目にするはずです。

商品やサービスの持つ「価値」は、大きく機能的価値と情緒的価値に分けられます。

ビジネスを成功に導くためには「商品やサービス、あるいは自分自身のブランドを強化する」必要があるのは言うまでもありません。では「ブランドを強化する」ためにはどうしたらいいかと聞かれると、言葉に詰まってしまう人も多いのではないでしょうか。

ブランディングの定義は多岐に及び唯一の正解はありませんが、「自社(自分)や販売するプロダクトの価値を高めること」がブランディングの核であることを否定する人はいないでしょう。

では、どうしたら「価値を高める」ことができるのか。それを考えるためには「価値」を正しく理解することから始める必要があります。

目次

自分やプロダクトの「価値」とは何か?

「価値」とは非常に難しい概念ですよね。なぜなら、ある人にとっては価値があるものでも、別のある人にとっては価値がないものなんて世界中にいくらでもあるからです。

例えば、僕は「気分がどんよりしがちな雨の日を少しでも楽しく過ごしたい」という理由で傘にお金をかけるようにしています。といっても、そこまで法外な値段をかけているわけでもなく、せいぜい2〜3万円くらいなのですが、普段コンビニのビニール傘を使っている人から「傘にそんなお金をかけるなんて馬鹿じゃないか」と言われたことが何度もあります。

あるいは寿司の王様とも言われるマグロの「トロ」ですが、江戸時代には捨てられていた、いわゆる下魚であったことは有名です。このように時代が変われば価値が変わるものもあるのです。

このように価値とは絶対的なものではなく、受け取る人や状況、場所、時代によっていかようにも変動するものです。だからこそ、少なくとも「誰に対して価値を届けたいのか」を定める必要がありますし、ターゲットやペルソナ設定はビジネスにおける必須項目となるのです。

参考:ペルソナ設定について起業家・フリーランスが知っておくべき9個のこと

その前提のもとで「価値の正体とは何か」を考えていきたいのですが、価値とは一般的に「機能的価値」と「情緒的価値」の2つに分類されます。

機能的価値とは

機能的価値とはその商品やサービスが持つ「機能面での価値」のこと。「スペック」という言葉で代用してあげるとイメージがつきやすいかもしれません。

例えば、マクドナルドであれば、安い、商品の提供スピードが速い、メニューのバリエーションが豊富、テイクアウトも可能、美味しいなどがありますね。

もちろん「価値」とは受け取る側が感じることで初めて意味を持つものです。そのため「商品やサービスから受け取ることのできる具体的な効用」と定義することもできます。

例えば、トレーニングジムや受験予備校、コーチングなどのサービス業の場合は、そのサービスを受けることで「どんな結果が得られるか」が機能的価値になるため、「実績」もまた大きく機能的価値を左右することになります。

情緒的価値とは

情緒的価値とは商品やサービスを購入した時、使用した時に感じることのできる空気感や感情面での価値のことです。

例えば、マクドナルドで考えるとどうでしょうか。マクドナルドには家族団欒のイメージや、学生が放課後にたむろしてお喋りするイメージなど、全体的に明るくてハートウォーミングな雰囲気が感じられますよね。それは俳優の堺雅人さんや木村拓哉さんが出演しているテレビCMを見ても明らかです。

木村拓哉さんといえば日本における「かっこいい!」の代名詞とも言える存在で、彼が出演している他社のCMも「かっこいい」や「クール」という言葉が似合うものが多いですが、マクドナルドのCMはユーモラスでお茶目な部分が前面に出ています。

このように「選ばれるブランド」には機能や効用だけでなく、「感覚的なイメージ」が必ず存在します。Apple、NIKE、RIZAP、Netflix、コカコーラ、あるいはBTS、あいみょん、明石家さんま、新海誠、宮崎駿…etc.

そして、それらのイメージは受け取る側によってそれぞれ異なるのではなく、大多数の人が同じイメージを共有する点がポイントです。多くの人が「コカコーラ」と聞けば「赤いロゴ」や「クリスマスや五輪、パーティーなどイベント時に楽しむもの」「明るくてアクティブ」なイメージを想起しますし、「明石家さんまさん」と聞けば「ハイテンションで快活でとにかく明るくて面白くて威勢がいいけど、どこか憎めないチャーミングさがある」イメージを連想します。

つまり情緒的価値は人の感情に訴えかけるものですが、偶然出来上がるものではなく、戦略的な狙いを持ってブランディングすることで意図的に作り上げるものというわけです。

情緒的価値で選ばれる時代

何年も前から「機能的価値」ではなく「情緒的価値」で商品やサービスが選ばれるかどうかが決まるようになったと言われています。

なぜなら、商品やサービスが溢れる現代社会では、機能面や品質面での差別化が難しくなったからです。以前は「この会社にしか技術的に作れない商品」がたくさんありましたが、今となってはA社が作れる商品は、B社もC社も、あるいはスタートアップのD社も作れるというのが普通です。

そして、消費者もモノが溢れた日常の中では「これ以上の便利さや品質」を求めなくなっています。例えば、今の時代で「テレビの画素数が上がった」からといって、果たしてそれを求めて新しくテレビを購入する人がどれくらいいるでしょうか。もっと軽いスマホが出たからといって「軽さ」という要因だけで、そのスマホが大ヒット商品になると考えられるでしょうか。

情報ビジネスでも同じです。

確かに機能的価値は重要ですが、そもそも顧客は「どちらの商品やサービスの方が機能面が優れているか」を正しく認識できません。それよりもっと直感的な感覚で「欲しい!」と思ったコンテンツやサービスを手に取るのです。

値段が高くても選ばれるのは情緒的価値のおかげ

機能面や品質面での差別化が難しくなっていると書きましたが、それはつまり機能的価値でしか勝負できないと、競合との差別化ができない(=競合よりも高い値段をつけることができない)ことを意味します。

そこで鍵となるのが情緒的価値です。

例えば、スターバックスのコーヒーは一般的に選ばれることの多いトールサイズで390円です。同じコーヒーをドトールで買えばMサイズで270円。コンビニだとセブンイレブンのコーヒーが100円程度です。

ドトールさんには申し訳ないですが、ドトールのコーヒーが400円前後するとなると、おそらく違和感を感じる人も多いのではないでしょうか。また、僕はセブンイレブンのコーヒーは普通に美味しいと思います。スターバックスと比べても遜色はないのではないでしょうか。それでもコンビニのコーヒーはやはり100円あたりが相場だと感じます。

スターバックスのコーヒーはドトールよりも約100円。コンビニよりも約200円高い。これを原価とか他商品との兼ね合いを一切排除して「ブランディング」という「顧客が払いたくなるかどうか」という観点で考えると、この価格の差こそが、スターバックスのブランド力を示していると判断できます。

スターバックスのコーヒーはドトールやコンビニよりも美味しいから高い値段がついているのでしょうか。そうじゃないですよね。コーヒーの味という機能的価値ではなくて、スターバックスの持つ「クリエイティブで都会的で洗練された自分になれそうな雰囲気」によって、ユーザーは仮に隣にもっと安くコーヒーを買えるお店があったとしても、スターバックスでコーヒーを購入するのです。

機能的価値は「信頼性」の根拠となる

ここまで見てきたように、今の時代は情緒的価値で選ばれる時代と言えます。ただし、だからと言って「情緒的価値をとにかく伸ばせばいい!機能的価値は必要ない!」と思い込んでしまうのは非常に危険です。

なぜなら、情緒的価値と機能的価値はそれぞれ対立し合う関係性ではなく、相互に作用し合う、両立する関係性だからです。そもそも情緒的価値とは「その商品の機能に触れる時に感じる感情」です。どれだけ情緒的価値を伝えることができたとしても、プロダクトの根底となる機能面が弱ければ、情緒的価値に説得力を出すことができません。

どれだけクリエイティブで洗練された雰囲気の自分になれそうだとしても、肝心のコーヒーが不味かったり、店内の椅子の座り心地が悪ければ、つまりコーヒーと店舗の機能的価値が低ければ、顧客は足を運ばなくなってしまいます。

どれだけ家族団欒で楽しそうな雰囲気を感じられそうでも、肝心のハンバーガーがあまりにも不味ければ、家族みんなで笑顔で過ごすことなどできやしないですよね。

特に高価価格帯の商材になればなるほど、人は「買わない理由」を探すようになります。感情(右脳)で「欲しい!」と思っても、理屈(左脳)で「買うべきでない理由」を探してしまうのが人間という生き物の性質です。

ここで感情を動かして「欲しい!」を引き出すのが情緒的価値の役割だとしたら、「買わない理由」を潰してあげて顧客の背中を押すことに貢献するのが機能的価値の役割です。

ルイヴィトンにて購入を即決した話

数年前、新宿高島屋内のルイヴィトンにて「クリストファー」というシリーズのバックパックを購入したことがあります。僕は普段ハイブランドの洋服やカバンなどを好き好んで購入することは少ないのですが、その時はたまたまYouTubeで有名人が持ち歩いているのを見て、一瞬で「かっこいい!欲しい!」と感じたんですね。

これはつまり「情緒的価値を感じた」ということになります。

そして実際に店舗に行って実物の商品を見ると、やはり「欲しい」という感情は変わりません。ただ「こんなに高いお金を払って買う必要があるのだろうか」「もっと違ったお金の使い道があるんじゃないか」という気持ちが胸の奥から浮かび上がってくるわけです。

つまり脳が「買わない理由」を無意識のうちに列挙し出すということが起こったのです。

そんな時に販売員さんがこんな言葉をかけてくれます。「このバッグはレザーではないので、雨の日でも気にせずに使えますし、レザーと比べても耐久性が高いので、ずっと長く使ってもボロボロにならないのでオススメですよ」と。

  • 雨の日でも気にせずに使える
  • 長い年月を経てもボロボロになりにくい

というのは機能面での価値です。雨の日でも使えるものが欲しいから、何年先でも変わらずに使えるものが欲しいから、そのカバンが欲しくなったわけではありません。ただ最後の最後に決めきれない自分にとって、これらの機能的価値が「それなら買ってもいいか」と背中を押してくれたことは間違いありません。

つまり人は感情で欲しくなり、心の中で「買う」という決断をくだします。ただ、そこから先に姿を見せる「買わない理由」を潰して実際に決済をするためには「理屈で後押しする」というステップが大きな意味を持つのです。

機能的価値の高め方

機能的価値で差別化はできないと言いましたが、逆にいうと「最低限の機能的価値が備わっていなければビジネスの土俵に立つことはできない」のは確かです。どんな人(企業)でも一定水準の機能的価値を持つことができる環境下において、他の競合並みのクオリティの商品を出せないというのは、シンプルに不利でしかありません。

仮に情緒的価値で見込み客の心を動かすことで商品を購入してもらえたとしても、機能的価値が弱ければ、お客さんに満足してもらえるだけの価値を提供することはできません。それはコーヒーがまずいスターバックスのようなもの。あるいは「楽して痩せます!」とか「寝てても月100万円稼げます!」という誇大広告と何が違うというのでしょうか。

だからこそ、まずはあなたの直接の競合となる商品を徹底的にリストアップしてください。その上で、競合たちが示している機能的価値の平均ラインを知りましょう。競合たちの機能的価値を数値化したら50〜60点だとしたら、せめてその範囲内に収まるレベルまで機能的価値を高めたいです。

コーチングやコンサルティングであれば「実績」も機能的価値の大きなベースになります。実績面で不安があるのであれば「実績が弱くても売れる方法」を考えるよりもまず「どうにかして実績を高められないか」を考えてしまう方が、競合と比較された時に厳しい状況に陥らなくなります。

と、ここまでは「当たり前」の話をしましたが、これ以外にも機能的価値を高めるためのテクニックは色々とあります。そのいくつか即効性があって効果的なものを紹介します。

機能面をズラして伝える

機能面をズラして伝えることで大成功を収めた代表的な企業といえば「ダイソン」です。

ダイソンといえば「吸引力が変わらないただ1つの掃除機」というキャッチコピーがあまりにも有名です。きっとこのコピーに触れた多くの人が「ダイソンいいやん!」と思ったに違いないはず。

ただダイソンの掃除機は「吸引力が変わらない」と言っているだけで「吸引力が強い」とは言っていないんですよね。現に他社製品と比べても吸引力は弱いとも言われていますが、吸引力の強さではなく、吸引力の「変わらなさ」に焦点を当てたという点で、機能をズラすことで独自のポジションを獲得できた例として語られるべきケースだと思います。

もちろん「吸引力が変わらない=吸引力が高い」と勘違いする人も多いのではないかという批判もあるとは思いますし、意図的に消費者に誤解を与えるコピーを用いるべきではないと僕たちは考えています。

ただ、吸引力の強さではなく「持続性」という新しい視点のもとに機能的価値の高さを再定義したという考え方自体には見習うべき点が多く含まれているのも事実でしょう。

一点特化した機能面を伝える

本当に消費者にとって良い商品とは、あれもこれも別のあれも全てのクオリティが高い商品なのは間違いありません。ただ、どの商品を選んでいいかわからない見込み顧客にとって「この商品はここも素晴らしいし、ここも良くできているし、ここも本当にいいんですよ!」と言われても、結局何が良いのかわからなくて、購買意欲は高まりません。

2022年に『ヤクルト1000』という商品が記録的な大ヒットとなりましたが、この商品は「睡眠改善」という機能的価値に特化させたことで多くの話題を呼びました。(中には「あまりに深く眠れるものだから悪夢を見る」という口コミも…)

ヤクルト1000は乳酸菌飲料ですから、睡眠改善以外にもたくさんの効果が期待できますが、あえて「睡眠改善」に絞って伝えることで、機能面の価値のわかりやすさが際立ったというわけですね。

また機能面では差別化できないという常識を逆手に取ったブランドもあります。それがオーバースペックであることを押し出して「究極のスペック」の商品を展開する『MOSTER SPEC』というブランドです。MONSTER SPECで展開されているダウンジャケットは、-60℃でも使用できる南極観測隊のためのダウンウェアをベースに究極の暖かさを謳った防寒具です。正直、普通の日本人にとってはまず必要ありません。

ただ、こうした「究極の機能的価値」で一点特化することで、シンプルに他社のメーカーとの差別化が可能になりますし「究極のスペックを提供するブランド」としてわかりやすい認知を得ることができます。

もうお分かりかもしれませんが「究極の機能的価値」を提供するMONSTER SPECは、最先端の技術を感じたい、本物の商品を持つ自分になりたいという男心をくすぐるという点で、情緒的価値にもアプローチすることができています。そうです。機能的価値を追求することで、情緒的価値を高めることにも繋がるのです。

ターゲットを絞り込む

前述の『ヤクルト1000』は30〜50代のビジネスパーソンをターゲットにしています。

Yakult1000のターゲットは、30~50代のビジネスパーソンです。具体的には、一時的な精神的ストレスがかかる状況にある方や、それに伴う睡眠の質が低下している方などをターゲットに想定しています。そのため、これまでの「ヤクルト」類とは一線を画すブランディングを行いました。

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2207/14/news043_2.html

元々ヤクルトは子ども向き、大家族のイメージが強かったですが、厳しいストレス化で日々闘うビジネスパーソンにターゲットを絞ったことで、機能面での価値を尖らせることができました。

もしかしたら、コーチングやコンサルティング等をスモールビジネスで実践している人の中には「私よりも、もっとすごい人たちがいるから…」と自信をなくしてしまう方も大勢いらっしゃると思います。ただビジネスのコンサルを受けたいと思っている人が全員、神田昌典さんや大前研一さんのような著名なコンサルタントのサービスを受けられるわけではありませんし、受けたいと思っているわけでもないでしょう。

例えば、英語を学びたいという人でも、ネイティブ並みの語学力を手にしたい人もいれば、会社のオンライン会議に特化した英会話を学びたい人もいれば、個人でオンライン輸入業を営んでいて取引先とのメール対応のストレスをなくしたい人もいれば、暇な時間を活用して少しでもスキルアップをしたい主婦の人もいるでしょう。

ターゲットが変われば求めるものも変わります。求めるものが変わるということは、求められる(≒効く)機能的価値も当然変わります。だからこそ「自分の現状のスペックで役に立てる人」をターゲットにして、ビジネスを展開することも当然有効だと考えられますね。

情緒的価値の高め方

情緒的価値とは、すなわち「イメージ」や「感情」といった目には見えないものによってもたらされる価値です。「なんとなくだけど、あのブランド好き」「あのお店ってなんかいいよね!」「○○さんの情報発信は他の人とは違ってなんか読めちゃう」といったように「なんとなく」や「なんか」で表現されることが多いのも情緒的価値の特徴と言えるでしょう。

それでは情緒的価値を高めるにはどうしたらいいのか、いくつか代表的な事例を紹介します。

機能的価値がもたらす未来を示す

機能的価値と情緒的価値は一見すると異なる概念に見えるかもしれませんが、情緒的価値は「そのブランドの機能に触れることで受け取ることのできる感情や雰囲気」と定義することができます。つまり、そのプロダクトの機能的価値を受け取ることで、どんな未来が待っているのか、どのようにライフスタイルが変わるのかを提示してあげることで、情緒的価値を高めてあげることができます。

例えば、ブログやYouTubeなどオンラインビジネスのコンサルティングを行っている人は多いですが、オンラインビジネスで収益化できるようになると一体どんな「良いこと」が待っているのでしょうか。そして「どのように人生が変わる」のでしょうか。

多くの駆け出しコンサルタントは「好きな時に好きな場所で好きなことをしよう」とか「世界中どこにいてもお金を稼げる」とか「自由になれる」という表現を好みます。問題なのは、みんな言っていることが同じということです。

例えば、僕がオンライン上で事業を始めた時、最大のモチベーションは「何もかもが自由だった大学生時代に戻りたい!」という思いでした。「自由になりたい」と「自由だった大学生時代に戻りたい」は同じように聞こえるかもしれませんが、感情を動かすインパクトは決定的に異なります。後者の方は「人生のピークを過ぎてしまった」とか「どうして頑張れば頑張るほど人は苦しくなるのだろう」という悔恨に対してアプローチができるため、よりメッセージとしての強度を高めることができるのです。

「結果的にどうなれるのか」は「ベネフィット」という言葉で表現できますが、機能的価値によってもたらされる未来や人生の変化を丁寧に表現することで、自ずと顧客が感じる情緒的価値を高めることができます。

自分の大事にしている価値観を示す

ビジネスにおいて「人を動かす」力は必須となりますが、人の心を動かすためには「理念」や「価値観」「哲学」が非常に重要です。イメージはワンピースのルフィ。彼は個性豊かな仲間と共に苦しい時も大変な時も目の前の困難を乗り越えていきますが、その軸にあるのが「海賊王になる」という理念です。

物語を知らない人からすると「こんな独りよがりな理念でいいの?」と思われるかもしれませんが、ルフィの熱い思いは、それぞれの仲間たちの抱えている想いやこれまでの人生とシンクロすることで「彼の理念を叶えることが自分達の夢」だと感じるようになったのではないかと考えられます。つまりルフィは「私たちの夢の代弁者」として、多くの人たちの夢を背負い、自らの言葉で巻き込んでいるのです。

「価値観」や「理念」とは、自分がビジネスをやっている理由(=本分)に直結します。

なぜ今のビジネスをやっているのか。
この商品を手にすることで、お客さんにどんな人生の変化を起こしてほしいのか。
その結果、世の中にどんな影響を及ぼすことができたら嬉しいのか。

ぜひこれらの質問に答えてみてください。

ポイントは「嘘をつかない」ことです。何処かから借りてきたような言葉で、それっぽい言葉を並べてみても、熱量のない言葉はすぐにバレてしまいます。またブランドの哲学は、キービジュアル、商品、商品の売り方、日頃の情報発信など、ビジネス活動における全ての場に反映されるものなので、自分の熱量を源泉としていない価値観や哲学のままでは、ブランド表現時の一貫性が生まれません。

一貫性がないということは、ブランドが顧客に伝わりきらないということなので、情緒的価値を高めることができません。仮に最初は「お金を稼ぎたい」とか「自由になりたい」とか自分本位のものしかなかったとしても、全く問題ありません。その次は「なぜお金を稼ぎたかったのか」とか「なぜ自由になりたかったのか」と自分の心をどんどん掘り下げていきましょう。

そして、自分の動機や原動力が深いところまで明確になったら「それが叶ったら、次は誰にどんな風に貢献したいか」を考えてみましょう。そこも考え終えたら「その次は誰の役に立ちたいか」と更に広げて考えて、最終的には「自分の提供できる機能的価値を通じてどんな世の中にしていけたら素晴らしいか」を考えてみましょう。

最初は自分のエゴが出発点で構いません。

いきなり「世界をどうしたいか」と考え始めたところで、自分が本当に思っていることや熱量高く伝えたいことなど出てきやしませんから。それならまずは自分の本音100%のところからスタートしましょう。

  1. 自分の動機を知る
  2. さらに動機を掘り下げていく
  3. 誰の役に立ちたいかを考える
  4. それが叶ったら次は誰の役に立ちたいかを考える
  5. 最終的に世の中がどう変われば嬉しいかを考える

ちなみに僕が一番好きな「価値観」は2002年に無印良品が提示した「無印良品の未来」です。

無印良品が目指しているのは「これがいい」ではなく「これでいい」という理性的な満足感をお客さまに持っていただくこと。つまり「が」ではなく「で」なのです。
しかしながら「で」にもレベルがあります。無印良品はこの「で」のレベルをできるだけ高い水準に掲げることを目指します。「が」には微かなエゴイズムや不協和が含まれますが「で」には抑制や譲歩を含んだ理性が働いています。一方で「で」の中には、あきらめや小さな不満足が含まれるかもしれません。従って「で」のレベルを上げるということは、このあきらめや小さな不満足を払拭していくことなのです。そういう「で」の次元を創造し、明晰で自信に満ちた「これでいい」を実現すること。それが無印良品のヴィジョンです

https://www.muji.net/message/future.html

このように自分たちが自らの商品を通して、世の中にどんなカルチャーを提示していきたいかを伝えられるといいですね。そして現在の市場へのアンチテーゼ、既存の常識を破壊してあげられるようなものになると、より高いブランディング効果が期待できます。

ストーリーを語る

どうしたら感情を動かすことができるのか。その代表的な答えは「ストーリー」です。論文を読んだり、あるいは朝礼で教頭先生のありがたいお話を聞くことが苦手な人は多いですが、『ワンピース』や『キングダム』のような漫画に熱中する人は非常にたくさんいますよね。

そもそも「聖書」もイエスの教えを多くの人に伝えるために書かれた「物語」です。なぜ物語という形式が採用されたかというと、物語というフォーマットが最も人の心に残りやすいことをイエスの弟子たちが知っていたからでしょう。

ストーリーといえば、こんな有名な話もあります。2014年、ある大学生がどこにでも売っている普通の2000円のボールペン(普通と言っても一般的には効果ですが)をヤフオクで3万5853円で売りました。一体どうしたら中古のボールペンが定価の15倍以上で売れたのか。その答えが出品者の大学生が書いた商品説明にありました。

彼はボールペンの機能面には一切触れることなく「自殺をしたくなるほど辛かった恋人との別れを乗り越え、心機一転するためにキックボクシングを新しく始め、大学の研究室の研究にも打ち込みながら、就職活動では過去の自分では考えられないような大企業の内定をGETする自分を支えてくれた思い出の品」であることを切々と語ったのです。

彼のこのストーリーは「人生を変えるボールペン」として話題にもなり、結果として定価の15倍以上の値段で取引されたのです。

ストーリーを活用して劇的に売上を伸ばした例は数えきれないほどありますが、「シュリッツ」というビールメーカーの話も有名です。シュリッツは元々全米で8位のビールメーカーでしたが、ビールを製造する際の職人たちの努力やストーリーを顧客に伝えただけで、たったの半年で業界ナンバーワンの座に辿り着いたと言われています。なお、シュリッツの大躍進に貢献したのは、売上低迷からの脱却を狙ってシュリッツ社が雇った、伝説のコピーライターでマーケターのクロード・ホプキンスです。

商品そのものの機能的価値では差別化が難しくても、ストーリーはブランド固有の独自資産です、誰一人として同じストーリーやバックボーンを持っていません。そしてストーリーは人の魂を震わせる力があるので、ぜひ商品開発時の思い、ブランドを立ち上げるに至ったストーリーを存分に語るようにしましょう。

顧客が好きな世界観を知る

僕たちはブランディングの持つ最大の効用の1つに「理想の顧客に集まってもらえる」ことがあると考えています。ブランドとはイメージの集合体です。そのため「誰にどんなイメージを持たれたいか」を追求することは非常に重要ですが、理想の顧客に選ばれる存在になるには、そもそも自分にとっての理想の顧客はどんな世界観が好きなのかを把握する必要があります。

以前、僕たちのクライアントに「若い女性を自分のビジネス系サロンに集客したい」という女性がいました。彼女のWEBサイトやSNSを見ると、彼女が好きだという薄いピンクを基調にしたバラの花がキービジュアルとして用いられていました。

それが素敵なデザインであったことは間違いありませんが、彼女が集客したい「アクティブで好奇心があって都会的なマインドを持つ若い女性」の好みとはミスマッチしていたのは事実です。淡いピンクのバラは言うなれば高島屋の包装紙のようなイメージで、やや年配層の女性の好みに近く、彼女のターゲットからすると「私のためのブランドではない」と感じる可能性は非常に高いです。

彼女のターゲットとなる若い女性が普段使うようなショップ。例えば、パルコやルミネといったお店をイメージしてみると、その差もだいぶ明らかになるのではないでしょうか。

僕たちはブランディングにおいて「顧客理解」が非常に重要だと考えています。その顧客は普段どんな生活をしていて、買い物をするならどんなお店を選んで、どんな雑誌をよく読んで、どんなYouTubeチャンネルを見ているのか。若い女性と一括りにしても青文字系、赤文字系など際限なく細分化できます。

自分の好きを貫き通すのも1つの選択肢ですが、本当に理想の顧客に囲まれたいのであれば、顧客があなたのブランドに触れた時に「これは私のためのブランドだ」と一瞬で感じることのできるような世界観を整えていくといいでしょう。

最後に

マーケティングやブランディングを勉強していると、機能的価値・情緒的価値という概念は必ず触れることになると思いますが、「単語は知っているけど、実際にはよくわからない」「自分のビジネスにどう繋げていけばいいのか想像ができない」という方も多いのではないかと思います。

ただ、ビジネスで成果を出すためには「価値のある商品・サービスを作り、その価値を顧客に感じてもらう」ことは絶対に必要になります。「商品を売るな。価値を売れ」なんて言われたりもしますが、価値を売ろうと思っても、価値の実態を知らなければ、価値を売ることなど最初からできやしません。

売り込むのではなく自然に売れていくスタイルでビジネスを展開したければ、お客様の方から「この商品を買いたい」「この人からサービスを受けたい」と思っていただく必要があります。そのためにはセールスをするよりも前に圧倒的に価値を感じていただかなければいけません。

ぜひ、この記事を参考に、あなたの機能的価値・情緒的価値と改めて向き合っていただければと思います。

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この記事を書いた人

コギシノゾムのアバター コギシノゾム 株式会社BILLETT、MAKEST代表

スモールビジネス×ブランディングの専門家。副業で月間100万PVを集める情報サイトを運営していたことがキッカケで、マーケティングやコピーライティングの世界に深くのめり込む。2015年に独立起業。以降は個人起業家や中小企業オーナーを対象にブランディングやビジネス構築のコンサルティングを行う。理想の顧客に売り込まずに売れるブランド重視の情報発信ビジネスの提案力が、自分の想いを大切にしたい顧客から多くの支持を得ている。

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