「商品が売れる」状況を作るためにすべきこと|今すぐできる知覚価値・知覚コスト戦略

巷には無数の「売れるためのコンテンツ」が溢れていて、自社商品やサービスが売れるようになるためのテクニックや戦術が解説されています。

  • 人は感情でモノを買うからとにかく感情を動かすべし!
  • メリットではなくベネフィットを語ろう
  • ステップを踏みながら見込み客教育を進めていくといい
  • 1人1人の顧客を深く理解することが大事だよ

こういった様々な意見を目にする機会は多く、ネットで見かける多種多様な「売れるテクニック」は局所的には正しいケースがほとんどです。

ただ、そもそも「商品が売れる」とはどういうことか、全体像を理解できていない状態で局所的なテクニックや知識だけが増えていっても、それらの知識を正しく使いこなすことはできません。

本記事では「売れる」という現象の定義を考え直した上で、どういう条件が整ったら商品が売れていくかを考えていきたいと思います。「売れる」の全体像を理解することで初めて、細々とした手法やノウハウを高い目的意識のもとに使いこなせるようになります。本記事がそのための力になれば幸いです。

目次

「売れる」とはどういうことか

当たり前ですが、商品が売れるという事象は「顧客(商品にお金を払ってくれる人)」がいて、初めて成立するものです。

では、顧客はどういう時に、あるいはどういう商品に、あるいはどういう人から商品を購入したくなり、実際に決済を完了するのでしょうか。

商品を購入した後の未来を想像してテンションが上がったから…。どうしても解決したい緊急性の高い不満や悩みがあるから…。商品の売り手に対して強く共感し、そして信頼もできたから…。こういった理由を想像される方も多いかもしれません。もちろん、それは決して間違ってはいません。

ただ、一歩引いた視点で捉えてみてください。特に商品購入後の未来に強く心を動かされなくても、特に緊急性の高い悩みを持っていなくても、商品の売り手に信頼も共感もしていなくても、何かしらの商品にお金を払った経験は必ずあるはずです。

例えば、ユニクロで洋服を購入する際。その服を買った未来を思って胸の高鳴りが抑えきれなくなったりするでしょうか。ヒートテックであれば「寒さを凌ぎたい」というニーズがあるかもしれませんが「一刻も早く寒さを何とかしたい!」というほどの緊急性や逼迫感を持って、商品をレジに持っていく人は、今の日本ではさほど多くないでしょう。

ユニクロであれば「品質」や「ブランド」に対して、強い信頼を感じる人もいるかもしれません。ただ、信頼や共感や愛着といった感情が、商品購入において絶対に欠かせないかというとそんなこともありません。僕であれば、よく誰が書いたかもよくわからないような数万円の有料noteを購入することもありますが、それはただ「自分に必要だ」と感じるからです。

商品を購入する理由は、その時々のケースバイケースです。商材にもよるし購入者にもよるし状況にもよって変わってきます。

ただ、ケースバイケースであることを前提にして、敢えてどんなケースにも当てはまる普遍的な「顧客が商品を買う理由」を定義づけるなら、こんな風に言えるはずです。

知覚価値が、知覚コストを上回ったら、人は商品を買う。

商品を手に入れることで手に入ると知覚する価値が、商品を手に入れるために支払うと知覚するコストを上回った時、人は商品を「購入してもいい」と判断し、知覚価値と知覚コストの差異が大きくなればなるほど「購入してもいい」という消極的な意思から「ぜひとも購入したい!」という積極的な意思に変化していきます。

だから、僕たちが商品を売るために必要なことは、

  • 知覚価値を高める
  • 知覚コストを下げる

このどちらか2つに大別することができるのです。

価値もコストも「知覚」でしか判断しえない

ポイントは「価値」も「コスト」も、あくまでも「知覚価値」そして「知覚コスト」であることです。

よく「ビジネスとは価値の等価交換だ」という主張を目にしますが、僕はあまりその意見に賛同することはできません。

なぜなら、顧客は商品を購入する段階では、その商品の実際の効用(実際価値)に触れることができないからです。そのため顧客は「少なくともこの商品にはこれくらいの価値があるだろう」と判断をするしかないのです。

初めて入るラーメン屋さんで食券を買う時に、このラーメンが1000円の価値があるかどうかなど、お客さんにははわかるはずがありません。だから、お店の評判とか友人からの口コミとか店構えとか行列の様子とか、あるいはこれまでの人生経験を総動員して「このラーメンにはこれくらいの価値があるはずだ」と、想像するしかないわけですね。

また「価値」とは極めて主観的な概念であり、人によって感じる価値は様々であることが普通です。ロレックスのデイトナに1000万円以上の価値を感じる人もいれば、時計なんてスマホがあれば十分、5万円でも高いと感じる人だってたくさんいます。

特定固有の商品に対しても、顧客が価値を感じるポイントは実に様々です。同じ飲食店であったとしても、その店の料理の味に価値を感じる人もいれば、空間や雰囲気を好む人もいますし、コースのボリュームを気に入っている人もいます。

つまり、商品の価値は、その買い手によっていかようにも変わるということですね。

コストについても「知覚」で考えてみましょう。

商品購入時における一般的な「コスト」といえば「価格」が想起されますが、仮に同じ30万円という価格でも、感じる痛みは人それぞれです。端的にいうと、所得が300万円の人にとっての30万円の支払いと、所得が3000万円の人にとっての30万円の支払いとでは、人生におけるインパクトは大きく変わってきますよね。

あるいは同じ人でも心理状況によって、時期によって、同じ金額を提示された場合に「高い」と感じるか「安い」と感じるかは異なります。ボーナスの時期とか年末とか、あるいは大型連休の際にはつい財布の紐が緩んでしまう人はきっと多いはずです。

そのため、実際に商品を購入する際にかかるコストが一般論として(あるいは他の商品と比較して)安いか高いかではなく、顧客が安いor高いと“感じる”かどうかが焦点となるのです。

美味しい話には裏があるとはどういうことか

先ほど「知覚価値と知覚コストの差が大きければ大きいほど、購入に対して前向きな気持ちになる」とお伝えしました。

ただ、「美味しい話には裏がある」という言葉もあるとおり、人は支払うコストに対して、あまりにも大きなリターンを提示された場合、訝しんで消極的になる生き物です。これはどう説明できるのか、考えてみましょう。

いわゆる「美味しい話」を受け取った時、つい警戒してしまう人の心理としては「何か騙されてるんじゃないか」とか「後から何か法外な請求をされるんじゃないか」とか「何か面倒なことに巻き込まれるんじゃないか」という疑念を抱いていると言えます。

つまり、一瞬は価値を得られるかもしれないけど、後から大きなコストを支払わなくてはいけないリスクが生じると感じているわけです。

そうなると、必然的に知覚価値と知覚コストの差は小さくなりますよね。だからこそ、見込み客に対して大きなベネフィットを提示する必要がある際には、そもそもオファーをする対象を絞るなど、自分の販売する商品に見合ったリテラシーの顧客かどうか見定める必要があります。

あるいは「デメリットを語ることで信頼を獲得する」という古典的な営業手法も一定以上の効果を見込めますね。

知覚価値を高めるために

ここからは「売れる」という状況を作るための手段としての「知覚価値」の高め方について触れていきます。そもそも「価値」とは、どう定義づけられるのかというと、代表的な分類の仕方に「機能的価値」と「情緒的価値」というものがあります。

機能的価値とは、商品が持つ機能面(物理面)の価値のことです。例えば、本棚であれば、大量の本を収納できるとか、地震に強いといったようなものです。機能的価値は数値化できることが多く、世間一般でいうところの「商品スペック」という言葉のイメージが近いかもしれません。

一方の情緒的価値とは、商品の機能面とは関係なく心理的な部分で価値を感じることを言います。本棚を買う際には、何冊の本が入るとか、耐震性が高いという要素だけじゃなく、カッコいいとかオシャレという理由で、ニトリやIKEAよりも10倍以上するような商品を購入する人もいるでしょう。

ということで、価値とは「機能的価値」と「情緒的価値」の2種類に分けられることができるので、あとはそれぞれの「知覚価値(実際の価値ではなく、購入前に感じることのできる価値)」を高めていくことが基本的な考え方となります。

またそれ以外にも派生して「価値の高め方」はいくつか挙げられますので、1つずつ確認していきましょう。

機能的価値で競合との比較優位を作る

最もオーソドックスかつ分かりやすい方法が、機能的価値で比較優位性を高めることです。

例えば、カメラであれば競合よりも高い画素数を実現する、自動車であれば競合よりも燃費をよくする、ビジネススクールであれば競合よりも受講生の実績を高める…といったように。

ただ、機能的価値を追い求めすぎた結果、顧客が求めていないレベルでの機能的価値合戦を繰り広げてしまい、結果として売れなくなってしまうケースは非常に多いので注意が必要です。

ある一定のラインを超えると、顧客にとっては多少のスペックの違いは気にならなくなります。それに画素数とか燃費とか軽さとか、同一直線上で競合他社と勝負をしていても、顧客からしてみると、その違いを見分けられなかったりするものです。

YouTubeで英語系の発信者を何人か見てみても「どっちの方がすごいのか」なんて、視聴者からしてみたら、正直よくわからないものです。

あらゆる技術革新が進み、商品のスペック面での差別化が困難になった時代では、買い手は「どちらがすごいか」よりも「どちらの方が感情が動かされるか」を重視するようになるのです。

情緒的価値を作り出す

情緒的価値の具体例として扱われることが多いのが、ドイツの自動車メーカーBMWが展開する小型車ブランドの『MINI』です。

僕の友人にもNINI(ミニクーパー)の熱狂的ファンがいるんですけど、MINIが好きな人って、どれだけ燃費が悪かろうと維持費がかかろうと壊れやすかろうと、もうMINIじゃないとダメなんですよね。愛くるしくも都会的な洗練されたデザインとか、絶妙なカラーバリエーションとか、自由度の高いカスタマイズ性とか理由はすごくわかるんですけど、そこには理屈を超えた感情の昂りがあるわけです。

あるいは、日本の家電メーカーが一気に調子を落とす中で、2010年代に急激に存在感を示したのがBRUNOです。BRUNOを語る際も機能面に言及する人はおそらくほとんどいません。デザイン性の良さとか暮らしが豊かになる感じとか、憧れのライフスタイルの必需品のようなイメージとか、そういう情緒面でポジションを確立した唯一無二のブランドといえます。

AIやブロックチェーン、電気自動車など、まだまだ技術革新の可能性は無限大ではありますが、個人がスモールビジネスを実践していく上では、技術面の競合優位性を持つことは非常に難しいものです。だからこそ、特定の顧客にとっての「情緒を動かす特別な存在」になることを目指していくべきだと僕は考えています。これこそが名もなき個人の戦い方ではないでしょうか。

希少性・限定性を出す

原則として、人は「いつでも、どこでも、誰でも」買えるものに高い価値を感じません。

数量限定品、期間限定品、特定の条件を満たした人だけが購入できる選民思想性の高い商品など、希少性が高く、限定性の高い商品は、人の購買意欲を高め、一般的な水準よりも高い単価で販売することができます。

また、人は手に入れるのに苦労した商品ほど、高い価値を見出して強い愛着を示すものです。より熱心なファンを作り出していくためには、あえて「買いやすくしない」という勇気も必要ではないでしょうか。

ターゲットを絞る

以前、代官山から恵比寿にかけて大通りを歩いていたら「お受験服専門店」なる店を見つけました。気になったので検索をしてみたら、名門校受験に精通した専門家が的確なアドバイスで、志望校ごとに、お受験に必要な洋服やら小物やら一式を揃えてくれるそうです。

ここまで明確にターゲット及び商品を絞ることができれば、必然的に顧客から選ばれる存在になり得ます。ターゲットと商品を絞れば絞るほど、それに該当する顧客は「この店は自分の悩みを解消してくれる場所だ」と自ずと認識しやすくなるので、機能的価値としての知覚価値もそれに伴って高くなるのです。(もちろん、パーソナライズされたサービスを受けることで情緒的価値も高くなるでしょう)

特にビジネスを立ち上げて間もない頃こそ、幅広く顧客を獲得しようとするのではなく、ターゲットを徹底的に絞ってみましょう。100人の人から60点の知覚価値を感じてもらうのではなく、たった1人からの120点を引き出すようなイメージですね。

訴求ポイントを変える

以前、フリーランスや起業家向けのビジネススクールを募集した際に、僕たちの顧客は「忙しすぎて自分の時間が持てないから、もっとビジネスを自動化して自分の時間を増やしたいのではないか」という仮説を立てて、「マーケティングのオートメーション」を前面に出したセールスを行いました。

ただ、実際に集まってくれた顧客の声や、購入しなかった方々にヒアリングをしてみると、彼らが求めていたのは「時間をもっと増やすこと」ではなく「労働時間は別に今のままでも(あるいはもっと忙しくなっても)いいから、売上を2倍、3倍と伸ばすこと」だったことを知ることができたのです。

僕たちのスクールは、オートメーションを進めて時間を増やすことも、労働集約性が多少高くなることを許容しながら売上をどんどん伸ばしていくことも、どちらも提供することができました。だからこそ「サービスのどの部分を際立たせるのか」によって、サービスの印象や、受け取ることのできる知覚価値は変わってくるのです。

例えば、電動自転車の場合を考えてみましょう。電動自動車の「価値」になる要素を列挙してみると、乗り心地の良さ、バッテリーの持続時間、車体の軽さ、デザイン性の良さ、車輪の大きさなどが挙げられます。当然ですが、価値を感じるポイント、重要視しているポイントは人それぞれ違います。だからこそ、誰を最重要顧客と定義して、その顧客は何を一番に求めているのかを知ることが、ビジネスの成功の鍵となります。

同じ商品を売る場合でも、訴求するポイントを変えるだけで、驚くほど反応が変わるものですから。

ターゲットを変える

仮に同じ商品でも、ターゲットを変えることで、新しい顧客が商品に新しい価値を見出すことで、商品が売れていくケースもあります。

有名な事例は『シーブリーズ』です。以前はシーブリーズといえば、元々は男性向けの商品(夏!サーフィン!という世界観)という印象が強くありましたが、次第に売上が低迷。その後、2000年に資生堂にブランドが譲渡されると、大胆にリブランディングして女子高生向けの商品として生まれ変わりました。

広瀬すずさん出演のテレビコマーシャルも印象的ですね。今ではシーブリーズは女子高生の2人に1人が使っているとか。

厳密には商品のリブランディングも行っているので「完全に同じ商品」とは言い切れないかもしれませんが、ほぼ同じ商品でも、商品の持つ特性を「今のターゲット以外に必要としている人はいないか」と考えることで、全く新しい顧客層を見つけられる可能性があります。

まずはターゲットを決めてビジネスを展開していくことになりますが、その中で「自分の意図しない属性の顧客」との出会いがあるかもしれません。そんな時はぜひ、意図せぬ顧客との出会いを大切にして、悩みや不安、日々の生活などを掘り下げてヒアリングしてみてください。思わぬ「価値の源泉」を発掘できるかもですよ。

より高い知覚価値を感じてくれる見込み顧客は、今とは別の場所にいるかもしれません。

知覚コストを下げる

どれだけ知覚価値を高めたとしても、それを手に入れるために支払う必要のあるコストが「高い」と感じたなら、購買活動にはなかなか至りません。

例えば、ベンツのGクラス(通称ゲレンデ)に対して高い知覚価値を感じる人は多いですが、新車価格で2000万円以上、中古でも1000万円を超えるケースが多いので、誰もが購入できるものではありません。(それが故に所有者の優越感も高まり情緒的価値が更に上がることになりますが)

また「コスト」は単に価格面だけの話ではありません。例えば、商品を手に入れる際に必要な労力や時間も買い手にとってのコストになり得ます。

ネットで買い物をしようとして、実際に商品をカートに入れたものの、購入のために面倒な会員登録等をしなければいけなかったりして、途中で買い物を辞めてしまった経験のある人も多いのではないでしょうか。これも「購買までの労力」や「時間」といったコストがかかっていると説明ができます。

他にも特定の場所でないと購入できない商品。数量限定で特定の時間しか購入できない商品、特定の決済方法でないと購入できない商品(例えば現金のみ)など、価格以外での知覚コストが高まることで、それが知覚価値を上回り、購入意欲を減退させるケースもあります。

ただ上で説明した通り、購入条件を厳格にすることで、希少性や限定性が高まり、知覚価値を高めることも可能です。「この施策を取ったら、顧客はどう感じるか」という顧客視点に立って判断をしていきたいですね。

それでは、知覚コストを下げるための、いくつかの施策に触れてみたいと思います。

ターゲットを変える

どんな細々とした価格戦略をテストするよりも、ターゲットを変える(もしくは絞る)ことが最も効率のよい方法であると言っても過言ではありません。

仮にあなたが30万円の単価のスクールを受注するとして、年収が300万円の人に販売するのと、3000万円の人に販売するのとでは、購入までの心理的ハードルが劇的に変わります。

例えば、あなたがセールスライティングを武器にして「売上を伸ばすための講座」をやっていたとします。もちろん、これでも売れることは間違いありませんが、「売上を伸ばしたい」と思っている人の中には「まだ売れていない人」すなわち「余剰資金がない人」も含まれている可能性が大いにありますね。

そこから、例えば「儲かっている既存事業を自動化したい人」にターゲットを変えて、ライティングの力でオートメーションを促進するためのサービスを販売したり、あるいは「採用を強化したい企業」にターゲットを変えて、採用ページのライティング全般を受注したりすることで、一気に単価を上げることができます。

比較対象を変えさせる

顧客は商品やサービスのオファーを受け取った際、無意識のうちに他の選択肢と脳内で価格を比較します。300万円の商品を検討する時には「この300万円があれば他に何ができるだろう」と考えたり、比較検討している競合他社の商品を思い浮かべて「別の会社の商品は確か半額の150万円で購入できたな」とコストパフォーマンスを比べてみたりするのです。

そこで効果的なのは、自分の商品が相対的に安いと感じられるような競合商品と比べてもらうことです。

上述した「採用ページ」の件もそうですね。採用を強化したい企業にターゲットを変えるメリットには「お金がある顧客」を相手にできることがありますが、その他にも「比較対象が変わる」ことも挙げられます。採用を強化したい会社が、採用ページや広告を依頼するのは、リクルートに代表される採用支援活動を提供する企業であることがほとんどです。

そういう企業と比べたら、どれだけ高単価で販売をしたとしても、相対的に安価に映るのです。

よく個人向けのビジネス・起業スクールがオファーされる際には、専門学校や資格取得の塾と比較されたり、あるいは「飲み会を月5回我慢するだけで参加できます」という文言が多用されます。つまり、何の実にもならず、職場や上司の愚痴と不平不満で溢れた時間を過ごすくらいなら、うちのスクールに入ってスキルを身につけて、新しいキャッシュポイントを手に入れて、人生の選択肢を増やした方が遥かにコストパフォーマンスの良いお金の使い方になりますよね、というロジックです。

みんながみんな、あまりにも同じようなコピーを使用してしまうと、新鮮味もなくなり、見込み顧客からの反応も落ちてしまいますが、「顧客が他にお金を使う対象」を持ち出して、相対的なコストパフォーマンスの高さを訴求することができれば、知覚コストを下げることができますね。

ただ、注意点もあります。比較対象を作る際は、必ず「顧客目線で」行う必要があります。

例えば、よく見られるコピーとして「私は普段、法人を相手に月300万円でコンサルティングをしています。だから本来は私のサービスを受けるためには月300万円が必要ですが、今回は個人向けのサービスであることに加えて、少しでも多くの人に可能性を提供したいから、特別に年間80万円で…」といったものがあります。

ただ、商品の買い手としては、商品の売り手が普段法人を相手にどれだけのお金をもらっているかなど、さほど興味がないし関係がないのです。大事なのはあくまで「自分のコストパフォーマンス」であり「自分が他に吟味している選択肢との差」なんですよね。

自分視点に陥りすぎて、顧客とは無関係の比較対象を持ち出してしまう人も非常に多いですが、あくまで「顧客が比較検討する対象」との間に相対優位性を作っていくようにしましょう。

ベネフィットをお金で換算する

例えば、100万円以上する商品を購入することで、将来的に300万円以上の節約ができるとしたら…?

100万円を支払う際の痛みを大幅に軽減させることができるでしょう。

いわゆるビジネス系、マネタイズ系(副業や投資、ビジネスコンサルなど)の商品の場合は、知覚価値と知覚コストが同じ「お金」という尺度で語られるので、知覚価値>>>知覚コストという認知を獲得しやすいです。

毎月100万円以上の売上を作るために、年間100万円のサポートを受ける。月額10万円のコンサルティングフィーを支払って、今の売上を2倍、3倍と伸ばしていく。このような認識を持ってもらいやすくなることで、スムーズに購買の意思表示を獲得することができます。常に「顧客を儲けさせる商品」は売れやすいですから。

一方で、お金という形でリターンを得られるわけではない商材でも、ベネフィットを金銭的に表現することで、知覚コストを下げることも可能です。

わかりやすい例で言えば、ゴルフや英語に関する商材ですよね。エグゼクティブ層との交流や出世に必要なツールであるこれらのジャンルであれば、高単価を設定したとしても、金銭的なリターンと直結して認知されやすいものです。

あるいは会員制のスポーツジムの場合はどうでしょうか。このまま運動習慣を身につけず、将来的に生活習慣病になってから健康や医療にお金を払おうとすると多額のお金がかかります。それを考えたら、若い時から健康管理に投資しておいた方が、将来的には節約になるだろう…と顧客が感じることができれば、健康な身体というベネフィットをお金で換算することになり、自ずと知覚コストも下がっていきますよね。

同様に高級腕時計や高級車、最近だとスニーカーなんかを購入する際に、リセールバリューを念頭に置く人も多いですが、これも知覚コストの低減に繋がっています。

複数のプランを用意する

古典的な方法ですが、複数の商品ラインナップを用意することで、顧客の知覚コストを下げることが可能です。

本当に売りたい商品が30万円だとしたら、30万円の商品を1つだけ置いておくよりも、15万円の商品と100万円の商品を合わせて置いておくことで、相対的に「安い」と思ってもらうことができます。(それと同時に、人は安すぎる商品に高い知覚価値を感じないので、ちょうど良い真ん中の商品が選ばれやすくなります)

一般的には松竹梅の3つのプラン(もしくは類似商品)を用意してあげることが効果が高いとされています。

クロスセルを用意する

クロスセルを分かりやすい言葉に置き換えると「セット販売」や「ついで買い」とも表現できます。

例えば、レストランでランチセットを注文した際に「ご一緒にドリンクはいかがですか?」と聞かれると、つい注文してしまうアレです。僕がよく行くダイニングカフェは、必ず食後に店員さんが複数種類のケーキ(しかも本物)が乗ったお皿を持ってきてくれて「よかったら食後にケーキはいかがですか?」とオファーをしてくれます。そして毎回僕はそのオファーに抗うことができず、毎回違う種類のケーキを頼んでしまうんです。しかもケーキを頼んだら食事のコーヒーも欲しくなる。ということで、僕は毎回追加で1000円近くの商品を「クロスバイ」してしまっていることになりますね。

人は一度買い物をしたら、心理的な財布の紐が緩んでしまいます。500万円で自動車を買った後に「シートをグレードアップしませんか?」とか「タイヤをこちらに交換しませんか?」とか「オプションでこちらの音響を導入しませんか?車内で音楽を聞かれる場合は、こちらの方が音質も格段に良くなりますよ」なんて言われたら「せっかくだから数10万円の違いなら良いやつの方がいいだろう」と、あらゆるオファーに「イエス」の回答をしてしまいます。

その結果、元々500万円の予定だった支払額が600万円、700万円になっている…!なんてあるあるですよね。

結婚式なんかもまさにそれです。神父さんを日本人から外国人に変えるだけで追加で10万円、讃美歌の合唱隊を入れたら追加で10万円。本当に面白い世界です。

多様な決済方法を用意する

「コストは価格だけではない」と説明しましたが、自分が希望する決済方法を選択できないことに大きなストレスを感じる顧客も複数います。

一般的なECサイトではクレジットカード決済しか使えないケースも多いですが、意外とクレジットカードを持っていない人や、使いたがらない人も多いです。そんな時に銀行振込という選択肢を用意してあげることで、売上が伸びるケースもざらにあります。

今や決済方法の選択肢が昔に比べて格段に増えており、1人1人の顧客ごとにベストな決済方法は異なります。クレジットカードがいい人もいれば、現金を好む人もいれば、交通系ICカードがいい人もいれば、PayPayがいいという人もいます。

そこで自分が気に入っている決済方法を選べなければ、見込み客にとっての知覚コストは高まってしまい、それだけで選択肢から除外される可能性もあります。できるだけ決済方法のバリエーションは増やしておくに越したことはないですね。

決済方法を簡易化する

僕がついつい商品を買ってしまうECサイトの特徴に「Amazon Payが利用できる」という点があります。

多くても年に数回しか購入をしないであろうサイトに、わざわざ会員登録をして住所やクレジットカード情報を入力して、メールアドレスで認証をして…という一連の手続きをするのって正直めちゃくちゃ面倒ですよね。

会員登録をしたはずなのに、次にログインしようと思ったら、なぜかパスワードを入力しても「間違いです」と表示される。そうこうしている間に商品の購買意欲がみるみる下がっていく…という経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。

その点、Amazon Payは本当にすごい。ボタンを1クリックするだけでAmazonの決済画面に飛び、またボタンをクリックするだけで商品購入まで一瞬で完結します。(それでついつい色々なものを買いすぎてしまって、時々後悔したりするのはここだけの話。)

一般的に決済方法が複雑になればなるほど、顧客の知覚コストは高まっていくので「もっと楽に購入をしてもらえないか」という視点は常に大事にしていきたいものです。

例えば、クロスセルやアップセル、オーダーバンプ(決済前に追加で商品をオファーされること。ウーバーイーツなんかでよく見ますね!)をする際にも、もう一度わざわざクレジットカード情報やら住所やらを入力してもらうのではなく、1クリックで決済が完了した方が、成約率は大幅に上がります。

ただ、一方で高単価のハイエンド商品を販売する場合は、あえて簡単に購入させないことで、顧客のスクリーニングになり選民思想を高め、金額以上の価値を感じてもらいやすくなります。

そのため、扱う商材や戦略次第で、どのような販売戦略を採用するかは変わってきますが、一般的に「購買までのステップを簡略化することで(商品を物理的に買いやすくすることで)、知覚コストを下げることができる」ことは覚えておく価値はあるでしょう。

分割決済を導入する

最後に最もシンプルかつ、分かりやすい知覚コストの下げ方を解説します。

方法はとても簡単。分割決済を導入することです。例えば、年間で120万円の高単価商材を販売する場合でも、月々10万円の12回払いを導入することで「それなら購入してもいいか」と判断する顧客も増えるでしょう。

販売者視点での分割決済のデメリットとしては、売掛金の未回収リスクが生じることです。平たくいうと、途中で購入者に飛ばれる可能性があるってことですね。

ただ、最近ではUnivapayのように24回分割だけど、販売者には一括で売掛金が初月に入金される決済代行サービスもあります。(その場合は、一括時の決済金額がクレジットカードの決済上限を下回る必要があるケースがほとんどですが)

そのようなサービスを使わない場合でも、一括決済時にインセンティブをつけて(割引とか特典とか)、できるだけ少ない分割決済で購入してもらうためのリスク管理をすることもできますし、そもそも途中で飛ばれてしまったとしても、売上がゼロのままよりは相対的にマシだと判断することもできます。

サブスク型の課金モデルを導入する

分割決済同様にサブスクリプション型の課金モデルも、買い手の知覚コストを下げることが可能です。

最終的に長期間にわたって契約を続け、それなりの額を支払うことになったとしても、最初の段階で顧客が認識するのはあくまで「月額」の金額です。それに加えて初月無料(クレジットカード情報など会員情報を登録してもらった上で、次月からは課金)にすることで、さらに知覚コストを下げることができます。Huluなど配信系のサービスがよく行っている手法ですね。

サブスク型のビジネスモデルの場合、どうしても途中解約率が高くなってしまい、最終的にLTVが高まらない可能性がありますが、アップセルやバックエンド商品を導入するなどして、LTVが高まりやすい状況さえ整えておけば、サブスクを活用して知覚コストを下げて購入者リストを増やすことも効果的な手として機能するでしょう。

全てのマーケティング手法は2つに分類できる

マーケティングの様々な手法は

  • 知覚価値を高めること
  • 知覚コストを下げること

のどちらかに分類することが可能です。この原理原則さえ押さえておけば、新しいアイデアを思いつくことも比較的容易になりますし、新しいセールスやマーケティングの手法を学んだり知った時も、変に困惑することが少なくなります。

結局のところ、マーケティングやセールスの手法を学んでも使いこなすことができないのは、目的意識が不足しているからです。何のためにやるのか、それによってどんなプラスが生まれるのか。その目的意識を原理原則から理解することで、あなたのスモールビジネスの思考や戦略の自由度はさらに高まっていきます。

知覚価値を高め、知覚コストを下げる。ぜひこの原理原則に則って、ビジネスを進めていきましょう。

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