マーケティングや情報発信の世界に生きていると、絶えず「ポジショニングが大事!」という主張を耳にする機会があるでしょう。もしくは「ビジネスとは要するに陣地取りゲームのことだ」という意見に触れたことがある方もいるかもしれませんね。
確かに、市場の中で自分だけのオンリーワンなポジションを構築することができれば、自ずとビジネスが上手くいくように思いませんか?
例えば、Appleは携帯電話市場の中に「iPhone」という個性的なプロダクトを投下してオンリーワンな存在になることができましたし、ダイソンは「吸引力が高いか低いか」とか「どのくらい軽量化されているか」という指標での争いが盛んだった掃除機市場において「吸引力が落ちないブランド」という尺度からポジションを確保することに成功しました。
あるいは個人で見てみるとどうでしょうか。こんまりさんこと近藤麻理恵さんは「片付けの魔法」で唯一無二のポジションを取ることに成功し、2ちゃんねるの創業者として有名なひろゆきさんは今では「論破の人」として若者の間でも確実に認知と人気を得ることに成功されています。
このようにビジネスにおいて一定以上の成果を出すためには「ポジショニング(=市場において特定のポジションを確保すること)」が重要であることは言うまでもありませんが、意外と「ポジショニング戦略とはなんぞや」ということを体系的に解説されたコンテンツはないように思います。
ということで、できるだけ情報発信やマーケティング初心者の方に向けて、わかりやすく「ポジショニング戦略」についてまとめていきますので、ぜひ参考にしてください。
同一直線上で戦い続けるネット上の情報発信者たち
今では、個人がSNSやYouTube、あるいはLINEやメルマガで情報発信をして、自分でコンテンツやサービスを販売するのが当たり前の時代になりました。
しかしながら、それに伴って「同じような雰囲気の情報発信者」が絶えず増え続けているというのも事実ではないでしょうか。
TwitterやInstagramのようなソーシャルメディアでは「伸びる型(or 伸びやすいとされている型)」があります。そしてSNS上で収益化している自称コンサルタントの方々は「伸びやすい型」を教えることで生計を立てている側面もあるので、必然的に同じような投稿をしている人たちが増えてしまうのです。
またTwitterにしてもInstagramにしてもTikTokにしても、コンテンツの自由度は低いため、自ずと似たような投稿が増えてしまいます。しかも、それを受け取る側はライトな感覚で投稿を流し読みしているため、特定の個人の世界観に深く触れるまでにはなかなか至らないんですよね。
また、特にTwitter界隈では「数字を使って実績を強調しよう」とか「何ができる人なのか分かりやすく伝えよう」とか「ノウハウを長文ツイートで具体的に語れ」といった運用ノウハウが語られることが多いです。つまり「自分の持っている機能的価値で認知を取れ」ということですね。
確かに、まずは「自分がどう役に立てるのか」を表明する必要がありますから、機能的価値を伝えることは重要です。ただ、みんながみんな同じように、数字付きの実績やノウハウという切り口で勝負しようとすると、同じ評価軸の上での同一直線上の競争を強いられることになります。あなたも見たことがあるはずです。SNSのプロフィールに最高月商だのLTVだの成約率だのオンラインサロンの会員数だのROASだのを具体的な数字付きで紹介しているネットマーケティングの専門家っぽいアカウントを。
ただ、これだと常に実績が強い方、数字が大きい方が優位ということになりますし、多少切り口を変えてみせたところで、受け取り手からしてみると「どちらも同じような感じ」に思えてしまいます。例えば、あなたが家電量販店に行って、ノートパソコンを見て、画面の解像度とか電気効率とかを見ても、よくわからないと同じです。よくわからないからみんな一際異彩を放っているAppleに吸い込まれていくのです。
同じような人たちが、同じようなプロフィールで、同じようなコンテンツを発信し続けている。これが昨今のSNSを中心とした個人の情報発信ビジネスの現状です。だからこそ「自分独自のポジションを作り上げる」ことの意義がますます高まっているというわけですね。
ポジショニング戦略の前提:STP
なんとなく「自分のポジショニングを考えよう!」と考える前に、押さえておきたい理論があります。それは現代マーケティングの父と呼ばれるフィリップ・コトラーが提唱した「STP分析」という考え方です。
STPとは、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの頭文字をとったものです。
- セグメンテーション:市場をどのように細分化して切り分けるか
- ターゲティング:どの細分化された市場を狙うか
- ポジショニング:その市場の中でどの立ち位置を取るのか
例えば、ゲーム業界を例にとって考えてみます。
ゲームの中でも家庭用ゲームなのか、小型の携帯ゲームなのか、ゲームセンター等に置かれるゲームなのかで分割をするのがセグメンテーション。その中で実際に携帯ゲーム市場に参入しようとするのがターゲティング。携帯ゲーム市場の中で、NintendoのDSが友達や家族とのコミュニケーションという効能に特化して、SONYのPSPがワクワクする世界観にひとりで没頭できることに特化したのが、ポジショニングということになります。
あるいは人物で考えてみましょう。タレントのフワちゃんっていますよね。彼女は元々お笑い芸人として活動していたそうですが、フワちゃんがテレビで一躍人気者になった時の肩書きはYouTuberでした。
お笑い芸人で面白くてテレビ的な立ち回りができる人は山ほどいます。でも女性YouTuberで普通の芸人を食ってしまうほどに爆発的なインパクトを残して、テレビの世界に簡単にアジャストできる人となると、相当に珍しいわけです。
どこまで戦略的に考えてアクションに起こしたかは定かではありませんが、フワちゃんはテレビタレントの世界をセグメントした上で「YouTuber」の市場を狙うと決めて、その中で圧倒的に破天荒なテレビタレントとしてのポジションを取ることに徹したことで、あのような地位に上り詰められたと言えますね。
コトラーがSTP分析を提唱してから、かなりの年月が経つため、昨今の企業経営や商品開発、広告戦略において、STP分析が積極的に活用されているかというと、そうではないという見方が優勢です。しかしながら、個人の情報発信レベルであれば、市場をセグメントして、狙うターゲットを決めて、ポジションをとりにいく考え方は十分すぎるほどに効果を発揮してくれることでしょう。
ポジショニング戦略とUSP
ポジショニング戦略による最大の効果は、顧客の頭の中に「○○なら▲▲!」といったように固有の明確なイメージを植え付けることができる点にあります。
例えば、ニュースを日本一わかりやすく解説する人といえば池上彰、国民にお金を配りまくっている人といえば前澤友作、日本一暑苦しい男といえば松岡修造、サッカーの解説がめちゃくちゃ上手いアイドルといえば影山優佳といった具合です。
そこに「いま会えるアイドル」のようなタグライン(キャッチコピー)が合わさると、より大衆にとって認知しやすい存在になることができますね。
つまり、ポジショニング戦略を活用することで、僕たちは市場における唯一無二性の高い存在になることができるのです。ここでUSPのことを思い出した人も多いかもしれませんね。USPとはユニーク・セリング・プロポジションのことで、日本語訳すると「独自の売りの提案」になります。
USPも「独自の売り」を作ることで、オンリーワンの存在を目指すという点で、ポジショニング戦略と非常に近いところにある概念ですね。
ここの思考の整理をしておくと、USPはどちらかというと商品の機能的な特徴や数値化できるスペックです。それに対してポジショニングを考える際には商品の機能面だけでなく、あくまで「個別具体的な存在」として認知されればいいんですよね。
例えば、先ほども例に出した「いま会えるアイドル」というタグラインで人気を博した、ももいろクローバーZですが、「いま会える」という点は確かに機能的なベネフィット(=USP)と言えるでしょう。ただ、その他にも例えば「いつも全力」とか「他のアイドルよりもアクティブでエネルギッシュ」とか「元気をもらえる」という固有のイメージはUSPというよりも、ポジショニングと言えるでしょう。
ちなみに、最近では機能的価値を表す言葉であるUSPに対して、個人の価値観や考え方や思想で差別化をしていくMSP(Me Selling Propotision)という考え方を提唱している人も出てきていますね。
USPの限界について
ちなみにUSPには限界があります。
冷静に考えれば当然の話で、USPという考え方が提唱され出したのは1940年代の話なんですよね。テッド・ベイツ・エージェンシーという広告会社のロッサー・リーブスという人によって提唱されてから、もう80年以上の月日が経過しています。
USPという考え方が流行してから、市場には同じような類似品が多数出回るようになり、商品自体の機能で差別化することが著しく難しくなりました。
そんな中でUSPで差別化しようとした商品や企業が陥ったのは、
- 価値にならないUSPを掲げる
- 差異が感じられにくいUSPを掲げる
このどちらかの落とし穴です。
実際の具体例で解説した方がわかりやすいですね。価値にならないUSPとは、例えば2000年代後半〜2010年代前半に見られた「3D機能つきテレビ」のようなものです。今となっては信じがたい話ですが、当時は家電量販店に行くと、各メーカーが大量に3D機能つきのテレビをプッシュしていました。
技術革新が進んだことで、高機能なプロダクトを作ることが比較的どの企業でも可能になったことによって、液晶の薄さや画質の良さでの差別化が難しくなった時代に、「新しい機能的価値が作れないか」と考えた各社は、当時流行していた3D映画にあやかる形で、3D機能を搭載したテレビを売り始めたのです。
しかし、日本の大手メーカーがこぞって取り掛かった3Dテレビは失敗に終わります。なぜなら、その新機能はどこにも需要がなかったのです。今では3D映画も大して流行っていませんよね。
差異が感じられないUSPとは、例えば十分に画質が高くなっているテレビの液晶において「さらに高画質」と謳ったり、十分に小型化や軽量化が進んでいる掃除機において「業界最軽量を更新」と謳うような価値の作り方です。
正直、液晶の画素数が多少よくなろうが、掃除機が0.0何グラム軽くなろうが、一般的な消費者の生活には何の影響も及ぼしませんし、そこに価値を感じる人は多くありません。日本企業が少しでも同一直線上での競争を進めている間に、「吸引力が変わらない」という全く異なる尺度で勝負をしてきた外資企業が一気に市場における存在感を高めたのは興味深いことだと思いませんか?
同様に、多くのひとり起業家の方の悩みを聞いていても「もう市場には自分よりもすごい人がいるから…」といったご相談を受けることが非常に多いです。でもよく考えてみてください。一般の人からしてみると、例えばYouTubeで中国語の勉強をしようと思っても、AさんとBさんとCさんで誰が一番すごいのかなんて正直見分けがつきません。
もしかしたら、私よりもAさんの方がYouTubeの登録者が多いから、再生回数が多いから、SNSのフォロワーが多いから、ツイートのいいねやRTが多いから、Aさんよりも私を選ぶ顧客なんてきっといないだろう、と不安に思っていますか?
果たして本当にそうでしょうか。それよりも、説明の仕方が得意かどうかとか、自分に向けて1対1で話してくれている感じがするかどうかとか、自分の悩みに個別具体的に対応しているかどうかとか、見た目の雰囲気とか話し方が好きかどうかとか、そういう部分で判断する人の方が多いとも考えられますよね。
フォロワーが多ければ多いほど、あるいはチャンネル登録者が多ければ多いほど、いわゆる権威性は大きくなるかもしれませんが、ユーザーからしてみると距離感が遠く感じられ過ぎてしまうという懸念点はあります。それよりも自分の悩みに対してピンポイントで応えてくれる「私の一番の理解者」と感じられる人に対して、人は商品を買ったりサービスを受けたいと思うものです。
どのセグメントを狙うのか
だからこそ、差別化が難しい機能的価値を起点にしたUSPに囚われることなく、もっと広い視野で「ポジショニング」に向き合っていかなくてはいけませんが、ここで最初にお伝えしたSTPが出てきます。
ポジショニングを実際に決める前に考えるべきことに「セグメンテーション(どう領域を分割するか)」と「ターゲティング(どのセグメントを狙うか)」があります。自分がどの場所を狙うかが決まらないと、そもそもポジショニングなど考えることができないのです。
僕の中学校時代の友人にY君という男子がいました。彼は陸上部で砲丸投げの選手をしていましたが、なぜ砲丸投げという一見マイナーな種目を選んだのかと聞いてみると「短距離や長距離、幅跳びはライバルが多いけど、砲丸投げはそもそもプレイヤーが少ないから簡単に県大会に出れるんだ」と彼は言ったんです。
実際にYくんは、予選会で飛び抜けて良い成績を取ったわけではないものの、県大会に出場することができたのです。
戦略とは「戦いを略す」と書きますが、何かを成し遂げようと思ったら、できるだけ戦わない方がいいに限ります。その方が楽に目標達成することができますし、戦いに勝つことが全てではないのです。
セグメンテーションとターゲティングのビジネスにおける良い例として挙げられることが多いのが、日清のカレーメシです。元々カレーメシは「カップカレーライス」として販売されていましたが、途中で「カレーメシ」とネーミングを変更。売り場もカップラーメンの近くに配置されています。
それによって、顧客の脳内では元々レトルトのカレーライスと同じセグメーションで認知されていたのが「カレーメシ」という独自のジャンルを作り出すことで唯一無二の存在になることができたのです。
ちなみに日清といえば「カップヌードル」もそうですよね。カップラーメンというセグメントの中には、例えば「ラ王」だったり、どこかの店舗とコラボした商品がありますが、そこにカップヌードルが入ってくるかというと恐らくそうはならないはず。カップヌードルはカップラーメンとは別の存在として認知している人が多いのではないでしょうか。
多くの顧客にとって「カップヌードル」は独立したセグメンテーションであって、その中にシーフードとかカレーとかトムヤムクンといった様々なバリエーションがあるのです。
- 勝てるセグメントで勝負する
- 新しいセグメントを作り出す
ポジショニング戦略でビジネスを成功させるためには、まず大前提の部分として、このどちらかの戦略をとってあげると比較的容易に顧客に選ばれやすくなります。
僕はノマドワーカーのセグメントを狙った
次に僕の話をします。僕は今から10年以上前に、toCのオンライン起業のコンサルタントとして活動をスタートしました。当時は当時で先行者と呼ばれる人たちがたくさんいて、僕は実績も乏しい後発組。そんな状況下で僕は「彼らとまともに数字やスペックで勝負しても勝てない」と早々に悟ったんです。
当時、働き方を変えたいとか起業したいとかWEBでビジネスをしたいと考えている人たちの選択肢となりうる存在は大きく分けて2種類に分類されました。
1つは「ネットビジネスで一発逆転!」と謳っているような、怪しいアンダーグラウンドな雰囲気を纏った情報商材屋とカテゴライズされる方々。彼らのWEBサイトやランディングページは札束が舞っていたり、炎がギラギラしていたり、まるで歌舞伎町や渋谷を走る夜のお店の宣伝トラックのようでした。
そしてもう1つは書店に本がズラリと並んでいたり、あるいは大学や企業で講演活動をしているような「ノマドワーカー」と呼ばれる人たち。僕が働き方を変えようと決意したのは彼らの影響が大きかったんです。安藤美冬さんや、四角大輔さん、本田直之さんといった面々の著書を毎日読み耽っては「僕もこんな風になりたい」と心の底から切望したものです。
僕は後者の存在に強く心を惹かれました。それと同時にこうも思ったんです。僕と同じような、後者に惹かれる人たちの力になることができたら最高だろうなと。
そして、いわゆるノマドワーカーにポジショニングされている人たちは、SNSで情報発信をしたり雑誌に寄稿したり書籍を出版していましたが、メルマガや公式LINEを発行したり、自分たちに憧れを持つ人たちに対して直接商品を販売するようなことはしていませんでした。
だから彼らに憧れを持つ一般の人たちは、どれだけ彼らの価値観やライフスタイルに憧れようとも、彼らのようになるための具体的な手段を彼らから学ぶことができなかったのです。だから僕は、ノマドワーカー的なポジショニングを取りながら、ダイレクト・レスポンス・マーケティングを実践したら、きっとたくさんの反応を獲得できるんじゃないかと思ったんです。
このように僕は狙うセグメントを変えるという選択をしたわけですが、それには1つ大きな効用があります。それは既存の一般的なセグメント(オンライン起業の世界)で捉えられた時に、唯一無二性の高い異色の存在として認知されるということです。
例えば、Perfumeは元々3人組のアイドルグループとして活動していましたが、エレクトロな世界観を前面に出し、ロックフェスにも頻繁に出演するようになり、邦楽ロックのセグメントで勝負するようになったことで大ブレイクを遂げました。すると、女性のアイドルグループというセグメントでPerfumeを捉える人の中でも「異色の存在」として明確な差別化がされるようになったということですね。
ちなみに僕自身もノマドワーカーのセグメントを狙って、そっちの世界にアウトプットのトンマナを合わせたり、ゴリゴリのビジネス色を排除したり、巷のネット系の発信者とは距離を置いたことで「なんか違うよね」とか「いつも哲学的な話ばかりしてくる人」と言われることが増えました。後者に関しては褒められているのかどうかよくわかりませんが、いずれにしても「何か他の人とは違う」と思われることが、駆け出しの発信者が認知を獲得する上で大事であることには疑いの余地はありません。
ポジショニング・マップを考える
さて、狙うセグメントが決まったら、次はその中で「どんなポジションを取るか」を考えていきます。ここで注意しなくてはいけないのは「ポジショニング」というのは客観的事実ではなくて、あくまで顧客の脳内で主観的に判断されるものであるということです。
つまり、どれだけ「カレーメシはカレーライスではない!」と販売者が思っていたとしても、顧客側が「いやいや、これはカレーライスでしょ!」と認識していれば、それはカレーライスという分類になってしまうのです。
同様に「このグループはアイドルではなくてロックバンドだ」と仕掛ける側が狙って売り出したとしても、市場やリスナーが「この子たちはアイドルだよね」と思えば、そのグループはアイドルになるのです。だからこそ、特定の1つの商品であったとしても、一人一人の顧客によってポジショニングやセグメントは異なるということになりますね。
僕は自分自身のことをノマドワーカーの系譜だと捉えていますが、以前SNS上でご紹介に預かった時は「凄腕のコピーライター」として紹介していただきました。「へぇ〜僕はコピーライターだったのか」と不思議な気持ちになりましたが、そう紹介してくださった方の中では僕はコピーライターの系譜として認知されていたのです。また以前メルマガの返信で「あなたみたいなアフィリエイターになりたい」と書かれていたことがありました。僕は他人の商品をアフィリエイトした経験がほとんどないので(合計で30万円くらい)、「僕はアフィリエイトの経験がほぼないですよ」と返信したくなりましたが、恐らくそういう問題ではないので、その一文には触れずにメッセージをお返しした記憶があります。
ポジショニングやセグメンテーションは顧客目線で考えるべきだということがわかった上で次に進みます。ポジショニングを考える上で採用されることの多い考え方が「ポジショニング・マップ」というものです。
例えば、こんな図をどこかで見たことがありませんか?
このように市場を縦軸と横軸で4つに分類したエリア上に競合を配置した上で、どのポジションを狙うのか戦略を決定するためのマップをポジショニング・マップと言います。
今回はホテルをイメージして「都会的 or 自然的」と「高級志向 or 庶民的」という縦横2軸を設定しましたが、この競争軸は最初から示されているものではなく、戦略を決定する際に自分で自由に決めることができます。だからこそ、いかに自分にとって有利になるような競争軸を見つけられるかどうかが鍵になります。
例えば、ビールの世界は長らく「キレ」や「喉ごし」といった尺度で判断されることが多かったですが、そこに「糖質カット」という視点から「健康意識」という競争軸が新しくもたらされることで、全く新しいポジションマップが誕生したことになります。
あるいは有名なブロガーにイケダハヤトさんという方がいますが「どれだけ稼げるか」とか「どれだけ時間の自由が潤沢にあるか」という視点で切り取られることの多かった、ブログや脱サラという市場を「田舎か東京か」という競争軸で捉え直し「まだ東京で消耗してるの?」という名コピーを生み出しました。
当時は与沢翼さんのようなネオヒルズ族と呼ばれる方々がネット起業の世界で目立っていて、タワマン、ランボルギーニ、ハイブランドのような世界観を富の象徴として前面に出す人が多かった時代でした。その中で「田舎でストレスフリーに生きよう」というガラ空きのポジションを獲得したことになります。
もちろん、ポジショニングとは顧客の脳内で想像される概念なので、競争軸を考える際も「自分にとって有利になる」ことは考える必要がありますが、大前提として「顧客にとってニーズがある」ことは忘れてはいけません。
どれだけガラ空きのポジションを見つけられたとしても、そこに顧客のニーズが存在しなければ意味がないのです。例えば、ビジネスのコンサルタントを探す際に「足が速いか遅いか」を気にする顧客は世界中のどこにもいないはずです。
需要があって空いているポジションを取ること
ビジネスで成果を出すためには、需要があって空いているポジションを取ることが重要です。そのための考え方として「セグメントの仕方を変える」ことをお伝えしましたね。ちょうど僕がオンライン起業のセグメントではなく、ノマドワーカーのセグメントを狙ったのも、この狙いに基づく行動です。
それでは、狙うセグメントが確定した上で、独自のポジションを見つける方法は、主にこの2つのどちらかに集約されます。
- 既存の競争軸の中で競合に打ち勝つ
- 全く新しい競争軸を生み出す
前者はとても分かりやすいですよね。例えばビジネスのコンサルタントであれば「実績」の強さで勝負するとか、学習塾であれば「進学先」で勝負するとか、大学であれば「研究の成果」や「卒業生の就職先」で勝負するようなイメージです。
では後者の「新しい競争軸」はどうでしょうか。例えば、今までは偏差値があまり高くないことから進学志望先として人気のなかった高校も、有名なインフルエンサーを多数輩出しているという理由から人気になる可能性がもしかしたらあるかもしれません。
そんな馬鹿なと思いましたか。でも今はコンテンストに入賞した腕のある美容師よりも、SNSのフォロワーが多い美容師に予約が殺到する時代です。人気のTikTokerが多い高校の入学志望者が増えたって、何もおかしくはないとも考えられますよね。
あるいはもう少し真面目な例を出しましょう。長らく牛丼チェーンは「早い、安い、美味い」という3軸で語られることが多かったですが、すき家がメニューの豊富さという競争軸で有利なポジションを獲得しましたね。そして、吉野家はライザップと提携して「筋トレやダイエット向きか」という競争軸で有利なポジションをとっています。
僕が初めてビジネスコミュニティを募集した時のコンセプトが「集まり、学び、遊ぶコミュニティ」でした。ビジネスを実践して収益化を目指していくためのプロダクトを募集するわけですから「どれくらいの金額を収益化できるか」とか「どんな機能的価値を提供できるか」が既存の競争軸になりますね。
ただ、そこに「遊ぶ」とか「人生を楽しむ」という要素を濃く入れることで、いわば業界内ではありきたりな商材でも、真新しい価値を持つ唯一無二性の高いプロダクトとして表現できるようになったのだと思います。
最後に:埋もれない発信者になるために
世の中のほとんどの発信者の方々は、実績の大きさやノウハウ勝負に出ることが多く、いわば既存の評価軸の中で「どっちが上か下か」という同一直線上の勝負を繰り広げている印象があります。
ただ、僕はそれはあまり意味がないと思っていて、1つには「精神的に疲弊するから」という理由が、もう1つには「顧客にとってどちらが上か下かとかは大して違いがないから」です。「AさんはTOEICが890点だけど、BさんはTOEICが900点だから、Bさんから絶対に学ぼう!」と考える人は世の中にはさほど多くありません。
それよりも「どのような競争軸を設定するか」とか「そもそもどのセグメントを狙うのか(どんな切り分け方をするのか)」の方が、独自のポジションを作る上で大事だったりするものです。
ぜひ、今回お伝えした内容をもとに、同一直線上の泥沼のような争いから卒業して、本当に顧客にとって価値のあるポジションを獲得できるようにしてみてください。それが「選ばれる存在」になるための第一歩です。